世の中的に「お金持ちほどケチ」または「貧乏人ほどお金の使い方を知らないから散財する」と言いますね。
私は過去の職業柄、多くの男性と出会ったことでこの理論は正解だと感じていますが、A氏はちょっと違いました。
今回は「お金持ちなのにケチなおじさん」とデートをした私の体験談になります。
オレの女にならないか?
A氏はベンツを乗りまわし、都内にいくつかマンションを所有、あちこちで女を囲う50代の既婚男性。容姿はゴルフ焼けの小太りでした。
デートに誘われた私も当然「愛人契約の誘い」は来ます。A氏は私が在籍していた「大人のお店の指名客」で、こうした案件はわりと転がってくるものです。
「オレの女にならないか?マンションに空いてる部屋があるから好きな所を選ぶと良い。新宿のタワマンにも空きが出たしどうだ?小遣いは月50万で足りるか?」
一部の弱者女性には神のような人だったはずです。
しかし私はお断りをしていました。だって、A氏の愛人になったら彼の言いなりで生きていかなくてはなりませんから。
行きたくない温泉旅行に付き合わされたり、気まぐれで自宅に上がり込んでくる逢瀬も断りにくくなるでしょう。
それに関係が破綻した時、私には残るものが何もありません。無一文で世に放り出されることは火を見るより明らかです。
「カネはあるけど愛の無い関係」に生活の一手を委ねるなんてリスキーすぎます。
度々の愛人契約を断り続けていたものの、それでも「一縷の夢をもつのが男のロマン」と言わんばかりにプッシュは続きました。
他にも囲ってる女性は何人もいるのにね。それでは飽き足らずこうしたお店に通うなんて、どんなに数を増やしても満足できないわけです。幸福度が低いとはこのこと。
安く見られたもんだ
そんなA氏と一度だけディナーデートをしました。
え、どうしてそんな相手とデートをしたの?
その理由は後で詳しくお話ししますが、一言でいうと「縁を切るため」が目的でした。
さて。待ち合わせ場所にやって来たA氏は、やぁ待たせたねと「ヴィトンっぽい紙袋」を私に突き出します。
「タイのお土産だよ。」
タ、タイ......。
そう、開封前からバンコクのコピーショップのオーラがもわ〜っと出ています。
渡された「ヴィトンっぽい紙袋」の口を覗くと、モノグラムの小ぶりなショルダーバッグがすでに見えています。ニセモノがバレバレのシロモノでした。
私は「ありがとう」と受け取りつつも、舐められたもんだ、この程度を見抜けない女だと思ったのか。私は安く見られたもんだと下唇をかみしめます。
まだ食事も始まっていないのに、心置きなく今夜でさようならは確定。タイのスラムで女を買う感覚で遊ばれては たまったもんじゃないです。
ひとまず食事はありがたく頂いて適当なタイミングで帰った方が良いとアラートが鳴り響きました。
すれ違いの想定外
そこは都内某所にあるおしゃれな海鮮鉄板焼き店。カウンター席に座り、シェフに目の前で焼いてもらうスタイルでした。
ニセモノを渡されてガッカリでしたが、ジュージューと音を立てて鮑や伊勢海老が鉄板で踊る姿を見たら「まぁ良いや」という気持ちに落ち着きました。
しかし、あろう事か驚きの第2章はすぐに始まります。
A氏はメニューを開くと「え?もっと安いのは無いの?」と野太く大きな声をあげ、金縁メガネを外したり掛け直したりしながらページをめくります。
コース料金は1人12,000円〜25,000円だったと記憶しています。品川駅近くのディナーコースとしては普通か安い方。A氏のステータスなら驚くような金額でありません。
「ええ〜?なんだよこれ〜!」と、ごねる大きな声が恥ずかしい。
ちらりと他のお客さんたちがA氏に注目します。カウンターのシェフも私たちの方をふり返り、鉄板の伊勢海老に丸い銀色の蓋をそっと乗せました。もちろん他のお客さんがオーダーしたものです。
「ちょっと声が大きいよ、それよりさ、これなんて美味しそうだよ。」と、私は小声で中間のコースを指差しました。伊勢海老は遠慮して、たらば蟹のソテーのコース。
中間を選んだ理由は、最安のホタテコースを提案すると「しょうがないから一番安いので良いわよ」という暗黙の妥協メッセージを投げるような気がしたからです。
お店を選んだのは私ですが「禁止の店外デートを決行するリスク」を背負って時間を提供しています。安いデートはできません。
むしろ多少は高いお店をリクエストすることで「高くつく女認定」が付き、もう私を誘わなくなる可能性も期待できます。
なのでA氏に関して言えば、もっとお高いところを目指しても良いと思ったくらいです。
とはいえ、このレストランの提案にA氏は「おお、いいぞ行こう」と快諾してくれていました。お店のサイトも教えていたので問題ないと踏んでいましたが、目を通していないようです。
というわけで「もっと安いのはないのか?」とメガネを外してメニューを舐め回すような反応にはびっくりしました。想定外のリアクションに自分が「悪い女」みたいで居心地が悪かったものです。
お酒はこれで良いだろう?と一番安い白ワインを指されましたが、どうでもよくなってきたので「それにしましょう」と首を縦に振りました。
縁を切るためのデート
ところで冒頭でお伝えしましたが「どうしてそんな相手とデートをしたのか?」の答えをそろそろ語りますね。
先に語った通り、店の常連客であるA氏はデートの誘いどころか「愛人にならないか」と申し出ていました。
毎回断り続けるのも疲れてくるので、そろそろ接客NGを出そうかと考えていたのです。
しかしNGという分かりやすい「拒絶」は危険を導く場合があります。逆恨みやストーカーなどがいい例ですね。
正直、店側も当てになりません。守りたくても出来ることは限られますから。
私や同僚たちは、NGを出した後にストーカーやネット中傷などの嫌がらせを受けたことがあるため、簡単に客を突き放すことが怖くなっていました。
そこで思い出したのが「あるジンクス」です。
禁止されている「店外デート」をしてあげると、そのお客は「お店には来なくなる」というものです。
実は、すでに私はこの現象を逆手に取り「お客と自然に縁が切れた実績」が2例あったのでした。
これには少し説明が必要ですね。
一度でも外で会う事に成功したお客は「お店に行くことがバカらしく」なり、引き続き店外デートの申し出をするようになります。
私はこの心理を利用しました。
店外デートに成功したお客は相手が「業界女子」という感覚を忘れ、ますますプライベートを求めるようになるため、目を覚ましてもらう必要があります。
再びデートに誘われたら「さすがに何回も規則違反するのはまずいわ。そろそろお店においでよ、最近来てくれないじゃない?」としっかり営業トーク。
しかし営業の煽りを受けると温度差を感じてしまい「この子、思ったのと違った。」と、だんだんどうでも良くなり連絡をよこさなくなります。
こうして、わざわざNGを出して相手を憤慨させなくても「自然に来店しなくなる」という構図が出来上がるわけです。
そうだ、ちなみにもう一つ。
外で会うことで、お店では見えなかった様々なリアルを見てしまい「思ったのと違った」と冷める「パターン2」もあります。
次のデートの誘いも来店も無いので手間が省けるものです。
結論から言いますと、A氏はこのデートがきっかけで私から離れていきましたが「パターン2」で離別できたものです。
補足
もしこれを同業の女の子が読んでいるとしたらマネはしないで下さい。
本来、女の子と外で会いたければデートコースを申し出て有料でやるもの。
デートコースが無いお店は「店外禁止店」です。秘密のデートは規則違反な上、お給料も発生しないためボランティアになってしまいます。
私は「自然と冷めてもらうため」にジンクスを利用したに過ぎません。奇想天外なことを実行するタイプなのです。
歩く〇〇
さて、話を現場に戻しましょう。
案の定、酔ったA氏はホテルに行こうと言い出します。
まるでマッチングアプリに生息している、出費を取り返したい若者みたいでダサすぎます。
そもそも「そういう関係」はお断りしていましたし、お食事だけなら良いわよという約束でした。
まぁ当然ではありますが、そんな約束なんて守らないものですね。私はこれを懸念して、食事の場所は「徒歩圏内にラブホテルが無い立地」を選びました。
しかしここは品川駅がほど近いエリア。つまりシティホテルのジャングルが近いのです。
これが少し不安要素ではありましたが「ほのかな懸念材料」はスルーしてはいけないと反省しましたね。
駄々をこねてふて腐れるA氏は、なんとデザートが来たタイミングで私を残して店を出てしまいます。
帰ったのではありませんよ。部屋をおさえるために近郊のホテルに問い合わせに行ってしまったのです。
たとえ部屋が取れても行くつもりはありませんが、ここまで強引な人とデートをしたのは初めてです。服装も警戒してパンツスタイルにゆったりニット。防護服のつもりで色気も消してきました。
目の前で焼いてくれていたシェフは会話を聞いていたでしょう。私が嫌がる様子も見ていました。
きっと勤務上がりのロッカールームでは「今日さ、えげつないオヤジがいたよ」と笑い話にすると思います。
1人カウンターに残された私は、スマホを相手にワインとデザートをちまちま頂くしかありませんでした。
私はA氏のような男性を「歩く生殖器」と呼んでいます。
カネで繋がる愛人関係のオキテ
さて、その恥ずかしさと怒りは、美味しかったであろうお料理の味も記憶が残せないほどでした。
食事中の会話の内容も覚えていないほどの憤りがありましたが、一つだけ記憶しています。
ふとした疑問を投げかけた時の会話です。
「オレのマンションに住めば良いっていうけれど、今までに仲がこじれて『出て行ってほしい』と思うようなことは無かったの?」
「あ〜そうそう、それ!1人邪魔なのがいるんだよ。あいつ出ていってくんねぇかな〜。」
とA氏は宙を仰ぎました。
これは想像でしかありませんが、A氏の要求を拒絶したり、借金の無心を繰り返したり、別の男を連れ込んだり?
その女性には契約違反のような振る舞いがあったのではと感じました。
「で、その子どうするつもりなの?」
という質問はやめて笑っておきました。食事を審議の場にしてはマナー違反ですから。
でもね、聞いておけばよかったです。将来ブログのネタに出来ますからねw。
カネで繋がる愛人関係は「男の言いなりになるのが暗黙のオキテ」です。飢えた女性たちは、そんな現実よりも目の前にぶら下がった人参を追いかけたのでしょう。
私はA氏の言いなりになるよりも、せっせと出勤して日銭を稼ぐ方を選んだのでした。
かわいそうですか?
「早く帰りたい一心」の私の元へA氏は仏頂面で戻ってきました。
そして「どこも空いてなかった」と、一言だけ吐き捨てるとグラスに残ったワインを飲み干します。
おそらく「どこも空いてなかった」はウソです。どこも残室ゼロはあり得ません。週末のラブホじゃないんだから。手頃な値段のお部屋が空いていなかっただけでしょう。
私は安堵の気持ちを込めて「仕方ないわよ、帰りましょう」とスマホをカバンに仕舞いました。
お店を出ると初冬の夜風が清々しく感じました。もうすぐA氏から解放されるからです。
しかしここで大人しくバイバイするジジイではありませんでした。
なんと、しっかり飲酒しているA氏は不思議なことにベンツでここまで来ていると言うのです。
近郊のホテルに入ってお泊まりを決め込む腹積もりで来たのでしょう。
彼の中には不可能とか失敗の想定は無いようです。
A氏は言います。
「車の中で酔いを覚ますから付き合ってくれないか。」
ジョ〜ダンじゃありません、おおかた車中で行為に及ぶ手筈を考えています。さもなくば堂々と車を発車させ、どこかのラブホテルに拉致されるかもしれません。
「ごめんなさい、もう帰らなきゃ。明日は朝が早いので。ごちそうさまでした。」
「何だよそれ〜」と駄々をこねる様をさえぎり「運転代行を呼びましょうか。」と提案しましたが「いい。車の中で考える」と言い残して歩き出しました。
これがA氏との最後でした。
私は品川駅へ向かい「ヒドい人だったな」と辟易しながら揺れる車内でふと考えました。
こんな人の愛人たちについてです。
利害関係
こんな人と日頃どんな付き合い方をしているのだろう?と囲っている愛人たちについて思いました。
考察になりますが、愛人たちはA氏とデートなんてしたくない、一緒に飯でもと言われたら近所のファミレスでチャチャっと済ますくらいで十分なのだろう。ということです。
A氏の人柄なんてどうでもよくて「早いとこマンションとお小遣い月50万をくれ」と、契約をさっさと締結させたかったのでしょう。
彼女たちにとって「気の利いたデート」なんて不必要なのです。つまり私とは目的が全く違うんですよね。
おそらく食いついてきたのは「弱者女性」で、若い子ならトー横やグリ下にでも滑り落ちるようなタイプ。
彼女たちは港区女子のような煌びやかな要求はしませんし、丸の内OLの様なスマートな思考もありません。
A氏は「頭が悪くて世間知らず、すぐに股を開く女性」が好きなのです。彼女たちとA氏の利害関係は一致していたのでしょうね。
そんな折、私という人物は「思ったのと違った」と言うハズレ女子だったのです。
お金の使い所と美学
とはいえケチな人が、住む部屋を与え、小遣いをあげるのでしょうか?わざわざハイクラスのベンツに乗るでしょうか?
かと思えばニセモノのブランドバッグをドヤ顔で差し出し、勝負どころのデートで「この店は高い」と悪態をついて恥をかかせる。シティホテルも安い部屋しか許さない。
もっと言えば私と出会った場所もやっすいお店です。なんで資産家がこんな所に来るんだい?と言った感じ。まぁ、これは割とあるあるですが。
とにかく何だかチグハグですよね。
これって、お金の使い所を切り分けているのだと思います。自分の欲望を叶えるための必要資金は出す。しかしそれは「自分の美学」に則ったものじゃなきゃいけない。
もうね、40代以上になると「こだわりが美学」となってしまうので異論は許さない傾向なんですよね。
「考えをあらためましょうよ」と諭しても言うことなんて聞きません。積み上げた思考は角質化した皮膚のように柔らかくなることはないのです。
つまりマンションとお小遣いは、欲しい女を得るための必要なエサ。美味しいディナーや気の利いたデートはA氏の美学には無いのでムダってことです。
女性の気持ちなんてどうでも良い。「オレ様のオレ様によるオレ様のための世界」だから。
おそらく、結婚も含めて女性との関係は「必要経費(資産や現金)をエサにしたオレ様の契約」でしかないのです。
お金持ちだけどケチと言われる理由
A氏は資産家なのでこうした生き方が可能ですが、日常がケチになると幸福感が下がりあらゆる人間に嫌われます。人の本質は日常に出ますからね。
よく「お金持ちほどケチ」と言いますが、彼らはムダを嫌い、お金の使い所を切り分けています。
かみ砕いていいますと、
「必要なもの」には資金を惜しまない
「必要なもの以外」は全てムダ
「必要なもの以外」とは「日常のちょとした贅沢」のことです。
おしゃれをする、目で楽しむ食事、美味しいコーヒーを飲みながら本を読む、部屋のインテリアを考える。そんな感じですね。
A氏の美学で言えば、それが無くても生きていけるし、それらで資産が増えるわけじゃなければ下半身を満たすこともありません。
後ろ姿
いけませんね、あの時のことを思い出してヒートアップしてしまいました。
A氏は「車の中で考える」と言い残し、コインパーキングがある薄暗い路地裏の方へ消えていきました。そのうしろ姿に哀愁を漂わせながら。これがA氏との最後。
私は優しいです。こんなジジイでも姿が見えなくなるまで見届けてあげたのですから。
この後のA氏がどんな行動を取ったかは分かりません。「今日はごちそうさまでした」とメッセージを打ったものの返事が無かったからです。来店もありませんでした。
戦いは終わりました。しかし私の母性の高さゆえ?最後の寂しい後ろ姿が気にかかることもありました。どこかに泊まったのか、運転代行を呼んで帰宅したのか。
しかし、ここでねぎらいのメッセージを送れば切れた縁が復活しかねません。やめておきました。
the end......
最後までありがとうございました。
この記事を書いている私は、「大人のお店のキャスト」として13年間、総接客数15,000人のキャリアを積み上げ、Kindle本の執筆も行いました。

というわけで本サイトで語る内容は、実際に私が多くの体験から得た「生きた答え」をアウトプットしています。